« この歳でスカウトされた! | トップページ | 日記のようなもの・・・下町ミニ散歩・上野公園 »

2017年4月 9日 (日)

ヘリコプター・エッセイ(67)

67_2
日本唯一のヘリコプター専門誌「ヘリコプター・ジャパン」(発行㈱タクトワン)に、連載記事を執筆して、もう67回になりました。
警察や消防など公共用ヘリコプターを中心にした、プロ向けの雑誌ですが、今回は判り易い内容ですのでご紹介しましょう。
B-5版2ページの記事です。2017年2・3月合併号に掲載されました。
著作権は私が保有し、編集部の了解は頂いておりますが、無断転載などはご遠慮ください。

写真はその記事(本名で執筆しています)、初代S-76A(副操縦席が私です)、大阪舞洲ヘリポートを離陸するSA365Nヘリコプターで、私が撮影したものです。
*
*

         ****************************
       「取材中のヘリは何故脚を降ろす?」

        *** ヘリコプター引込脚のあれこれ ***
*

 ある人からこんな質問を受けました。「取材飛行中の引込脚のヘリコプターは、必ず脚を降ろしていますが、何故ですか」
 これは大変良い質問です。案外クルーでないと判らないかも知れません。
 信じにくいかも知れませんが、ヘリコプターに限らず、引込脚の機体で着陸時に脚を出し忘れて胴体着陸する例は、意外に多いのです。
 今回は脚の出し忘れに限らず、航空機の引込脚にまつわるあれこれです。

       **********************************
*

 毎年正月恒例の大学対抗箱根駅伝、ドローンが普及しているとはいえ有人ヘリコプターが活躍していて、雄大でリアルな迫力ある画面を楽しませてくれます。
 低空低速で取材と生中継をしている機体は、当然ながらテレビ画面にはあまり登場しません。
 マラソンや駅伝に限らず、捜索救助などでも低空低速飛行している引込脚のヘリコプターは、例外なく脚をダウンさせています。
 これは何故でしょうか。

 以前ですが石川県小松空港で、航空自衛隊のF-15戦闘機が胴体着陸したことがありました。
 この時の操縦士は指導教官で編隊長の、ベテランパイロットです。機体に特に不具合は無く、原因は脚の出し忘れ。幸い大事にはなりませんでした。

 私は一時期、岩手県の花巻空港で勤務していたことがあります。
この時プロペラの小型単発機(ビーチクラフトだったと思います)が、ランウエイに胴体着陸しました。
 これも原因は脚の出し忘れ。乗員に怪我はなく、火災も発生しませんでした。
私は空港事務所からの依頼を受けて機体を調査しましたが、ギアレバーはアップのままです。

 ヘリコプターでも接地して見たら、いつもより低い事に気が付いて再浮上し、改めてギアダウンして着陸した実例を知っています。
ヘリコプターでは脚が出ていないで着陸したら、転倒して大事故は免れません。
 このように、着陸時にギアダウンを忘れて胴体着陸した事例は、結構あります。

 固定翼機ヘリコプターを問わず、引込脚の機体では脚の出し忘れ防止のため、二重三重にもアラート(警告装置)を設けています。
 もちろん飛行規程には着陸前点検が規定され、チェックリストも備えられています。
どんな警告装置があるのでしょうか。

S76 機種によって多少の違いはありますが、私の経験したシコルスキーS-76とアエロスパシアル(現エアバス)AS365ヘリコプターを例にしてお話しましょう。
 まず共通しているのは機速が規定以下(S-76は40kts、AS365は55kts)になると、計器盤に独立したコーションライトが点灯し、警告ブザーが鳴ります。
 この音はヘッドセットにも入り、通常はコックピットからは消せません。ちょっと驚くくらいのかなり大きな音です。
 整備上の必要などで、不作動にするには電気室のサーキットブレーカーで切ります。
 固定翼機のある機種では、さらに操縦桿に振動を与えて操縦士に警告します。

 これほどの脚忘れ防止策がなされているにもかかわらず、出し忘れ事故が発生するのは、基本を守ること、つまりプリランデイングチェックがいかに大事か、がわかります。
 さらに最新のGPWS(対地接近警報装置)も、装備されていれば作動するでしょう。

 S-76では計器盤上に独立して3個のグリーンライトがあり、ギアダウンしてロックされると点灯し、ギアアップして途中経過時は点滅し、格納されアップロックすると消灯します。
 AS365は独立した計器の中に、下向きの3個の矢印ライトとオレンジのライトがあり、同様にダウンロックするとグリーンの矢印が点灯します。途中ではオレンジが点きます。

 着陸前点検項目はそれほど多くはありません。その中に“ギアスリーグリーン”とあるのはそのためです。
 通常は副操縦士又は整備士がチェックリストを読み上げ、機長が確認します。

 ここまで見てくると、低空低速の機体が脚を降ろしている理由は判りますね。
 脚上げしていると警告ブザーが鳴り、交信に支障きたすからなのです。当然ギアダウンすれば警告音は止ります。
 これは案外クルーでないと判らないかも知れません。

 逆に脚が出なかったら、これは怖いです。
 私がS-76Aで経験した実例をご紹介しましょう。あるVIPの専属クルーをしていた時のことです。

 VIPを乗せて新潟県の場外離着陸場に着陸しようとした時、左のグリーンライトが点きません。
機長はゆっくり旋回して時間を稼ぎ、私は何度かアップダウンを繰り返しました。
ギアレバーを握る手が、汗ばんできたような気がします。
 警告ブザーは鳴らないのですが、やはりランプは点きません。
地上からは脚は出ているが、ロックされているかどうかは判らないと言います。
 何度か繰り返すうち、ダウンしたらスコンという感じで点灯しました。
着陸してVIPが去ってから、どっと疲れが出たのを覚えています。
 もちろん帰投後徹底して調べたのは、言うまでもありません。
結局左のライト自体の接触不良でした。

As365n 引込脚に関して、あわや大事故になるところだったもう一つの経験があります。
 着陸前点検項目の重要な一つに、パーキングブレーキOFFの確認があります。
 SA365N(SAはアエロスパシアルの前身でシュッドアビエーションの略)で、大阪八尾空港に着陸の時でした。

 プリランデイングチェックで、パーキングブレーキオフと読み上げた私は、接近してきた小型機に気を取られ、機長がOFFを確認したと思っていました。
 機長は滑走路に滑走着陸しましたが、ブレーキが効いていたため大きくつんのめり、危うく転倒するところでした。
 機長はとっさにピッチレバーを引いて浮揚させ、私はブレーキレバーを解除し、正常に着陸しましたがまさしく危機一髪でした。
 これも基本をおろそかにした、慣れによる注意不足の他はありません。

 どちらも息の長いヘリコプターで、S-76は私の当時はA型でしたが最新型はD型となり、SA365NはAS365N3に発展して、現在も活躍しているのはご存じの通りです。

                                       (了)     2017.03.07

|

« この歳でスカウトされた! | トップページ | 日記のようなもの・・・下町ミニ散歩・上野公園 »

乗り物」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1067818/70201498

この記事へのトラックバック一覧です: ヘリコプター・エッセイ(67):

« この歳でスカウトされた! | トップページ | 日記のようなもの・・・下町ミニ散歩・上野公園 »