« 0021 勝手気ままなエッセイブログ | トップページ | タバコ屋の看板娘的機関車 »

2009年7月 8日 (水)

0077 「不倫もどき」

********************* 
  「不倫もどき」
  *********************

 私はいまJR東海道線の熱海駅にいる。
昼前のホームは、平日のせいか人影まばら。眼下には湯の町がひろがり、その向こうに相模湾が初冬の日ざしに鈍く光っている。

 Photo_7 数年来、大阪に単身赴任中の私は、熱海停車の「ひかり」をえらんで、今朝早く新大阪を発ってきた。ここで私が待っている列車は、特急「スーパービュー踊り子53号」伊豆急下田行。この列車は一部の旅好きからは、ひそかに“不倫列車”とあだなされている。

 東京池袋を9時27分に出るこの特急は、熱海までに新宿と横浜しか止まらない。停車駅が少なく人目につきにくいせいか、利用しやすいダイヤのせいか、途中から乗り合わせるカップルが多いそうだ。私もその一人である。
 「今年はどこにする?]
 「暖かいとこ。温泉がいいわ。海に行きたいんでしょ?」
 銀婚式を過ぎた夫婦の会話は、修飾語が極端に少ない。またそれで通じる。
 私たちは毎年12月初旬に小旅行をすることにしている。結婚記念日やら、家を留守にしているつぐないやら、夫婦だけの忘年会、と理由はいろいろ。

 2人とも根っからの旅好きで、行き先は毎年かわる。共にドライバーで妻はゴールド免許であるが、なぜか汽車旅が多い。
 私は大の海好き、風呂好き、お魚好きで水族館が大好き、もちろん食べることも大好き。妻もまけずに食いしん坊で、おまけにもっぱら和食党である。それやこれやで今年は南伊豆で海に近い温泉となった。

「車中で合流するなんて素敵ね。私たち不倫のカップルに見えないかしら?」Photo_11
「まあ無理だろう。男にも(相手を)選ぶ権利はあるはずだから…」
 打ち合わせの電話ではしゃぐ妻に、私の言葉の後半部分は声にはならなかった。
 かくして、私はいま熱海駅・伊東線のホームにいる。
まもなく到着する踊り子号の座席で私を待っているのは、残念ながら?妻である。
                                              (了)
                 1997.01.07

      ************************

日付でもお判りのように、10年以上も前の作品で、文章修行を始めたころのものです。
この作品は評価が分かれました。
随筆講座ではヒジョーに面白い(原文のまま)とお褒めに預かり、優上(限りなく秀に近いそうです)を頂いて、ある本にも掲載されました。

しかし、地元の随筆同好会では散々でした。
いわく;-
「随筆は言葉の芸術であるから、不倫という言葉自体がふさわしくない」
「随筆は品位を重んじる。ユーモアとか笑いは随筆の品位を落とし、不要のものだ」
「熱海駅のホームで随筆が書ける筈がない」・・・etc
結局この地元サークルは止めました。
なにせ成田空港と羽田空港の区別が付かない方々なので・・・。

       **********************
なお、この不倫列車?は、現在は平日は新宿始発、休日は池袋始発となっています。
また、現在は熱海駅では新幹線ホームでないと、海は見えません。 
写真は東京駅のスーパービュー踊り子号です。
プレミアム特急といって、特急料金が多少高くなります。

|

« 0021 勝手気ままなエッセイブログ | トップページ | タバコ屋の看板娘的機関車 »

旅行・地域」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1067818/30457009

この記事へのトラックバック一覧です: 0077 「不倫もどき」:

« 0021 勝手気ままなエッセイブログ | トップページ | タバコ屋の看板娘的機関車 »