0077 「不倫もどき」
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「不倫もどき」
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私はいまJR東海道線の熱海駅にいる。
昼前のホームは、平日のせいか人影まばら。眼下には湯の町がひろがり、その向こうに相模湾が初冬の日ざしに鈍く光っている。
数年来、大阪に単身赴任中の私は、熱海停車の「ひかり」をえらんで、今朝早く新大阪を発ってきた。ここで私が待っている列車は、特急「スーパービュー踊り子53号」伊豆急下田行。この列車は一部の旅好きからは、ひそかに“不倫列車”とあだなされている。
東京池袋を9時27分に出るこの特急は、熱海までに新宿と横浜しか止まらない。停車駅が少なく人目につきにくいせいか、利用しやすいダイヤのせいか、途中から乗り合わせるカップルが多いそうだ。私もその一人である。
「今年はどこにする?]
「暖かいとこ。温泉がいいわ。海に行きたいんでしょ?」
銀婚式を過ぎた夫婦の会話は、修飾語が極端に少ない。またそれで通じる。
私たちは毎年12月初旬に小旅行をすることにしている。結婚記念日やら、家を留守にしているつぐないやら、夫婦だけの忘年会、と理由はいろいろ。
2人とも根っからの旅好きで、行き先は毎年かわる。共にドライバーで妻はゴールド免許であるが、なぜか汽車旅が多い。
私は大の海好き、風呂好き、お魚好きで水族館が大好き、もちろん食べることも大好き。妻もまけずに食いしん坊で、おまけにもっぱら和食党である。それやこれやで今年は南伊豆で海に近い温泉となった。
「車中で合流するなんて素敵ね。私たち不倫のカップルに見えないかしら?」
「まあ無理だろう。男にも(相手を)選ぶ権利はあるはずだから…」
打ち合わせの電話ではしゃぐ妻に、私の言葉の後半部分は声にはならなかった。
かくして、私はいま熱海駅・伊東線のホームにいる。
まもなく到着する踊り子号の座席で私を待っているのは、残念ながら?妻である。
(了)
1997.01.07
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日付でもお判りのように、10年以上も前の作品で、文章修行を始めたころのものです。
この作品は評価が分かれました。
随筆講座ではヒジョーに面白い(原文のまま)とお褒めに預かり、優上(限りなく秀に近いそうです)を頂いて、ある本にも掲載されました。
しかし、地元の随筆同好会では散々でした。
いわく;-
「随筆は言葉の芸術であるから、不倫という言葉自体がふさわしくない」
「随筆は品位を重んじる。ユーモアとか笑いは随筆の品位を落とし、不要のものだ」
「熱海駅のホームで随筆が書ける筈がない」・・・etc
結局この地元サークルは止めました。
なにせ成田空港と羽田空港の区別が付かない方々なので・・・。
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なお、この不倫列車?は、現在は平日は新宿始発、休日は池袋始発となっています。
また、現在は熱海駅では新幹線ホームでないと、海は見えません。
写真は東京駅のスーパービュー踊り子号です。
プレミアム特急といって、特急料金が多少高くなります。
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