0049 椿の南禅寺
お正月らしく、ちょっと艶っぽいお話を・・・・。
写真はあえて載せません。 エッセイの味をどうぞ・・・。
「椿の写真がありましたので、添えてみます。いかがでしょう。2009.01.21」
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「椿の南禅寺」
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私の日記帳に、一枚の手作りのしおりが入っている。小さなビニールの透明な袋に、濃いピンク色の椿の花びらが二枚。乾いて押し花になっていても、ピンクの色は今でも艶めいている。
小柄で目のきれいな彼女は、着物の似合う人だった。でも私が彼女の着物姿を見たのは一度しかない。琴と日本舞踊のお師匠さんである彼女は、今でもスラックスの類は一枚も持っていないという。
京都の中心部にお稽古場を持ち、普段はミニスカートとヘルメットで、ゼロハンのスクーターで京都の町を駆け回っているらしい。
仕事先で着物に着替えるのだそうだ。
「バイクの駐車違反でつかまっちゃった」
と赤い舌をペロリと出したりする。
京都・岡崎公園の神宮通りには大きな鳥居があって、古風な建物の市立美術館と近代的な国立美術館が向かい合っている。私たちが会うのは、市立美術館のロビーだった。
休日がなかなかかみ合わない私たちは、ふた月に一度くらい落ち合っては画展を見たり、ほど近い南禅寺までぶらぶら歩きを楽しんだ。
大阪に単身赴任していた私は京都が好きで、何回足を運んだか分からない。主だった観光名所については、京都の人より詳しいと自負している。彼女とはそうした機会に知り合って、友達以上、恋人未満のお付合いが続いている。
航空関係の技術者である私にとって、お互いにまったく別の世界の人なので、会って話すとひどく新鮮に感じる。京都生まれで京都育ちの彼女は、良くも悪くも京都しか知らないが、観光ガイドとしては失格である。私のほうがよほど詳しい。
加えてひどい方向オンチで、京都駅までも一人では行けない。それでも大学だけは大津の国立滋賀大学だったそうだ。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」
有名な平家物語の書き出しにある、沙羅双樹の花の色を教えてくれたのは彼女である。現在は洛北一乗寺のマンションで、高校生の娘と暮らしている。
そんな彼女が一度だけ、大阪の私のねぐらに夜遅く電話してきたことがある。息子が東大に現役で合格したという。よほど嬉しかったのだろう、私の帰りが遅いので何度もかけてきたらしい。
後から聞いた話だが、彼女の身内からは「そんなしょむないとこ入って・・・」と言われたそうだ。京都人にとっては京大だけが唯一の最高学府であり、東大といえども「しょむないとこ」であるらしい。
次の晩、先斗(ぽんと)町のあるお店で、会った事のない息子のためにささやかな祝杯をあげた。あまりお酒の強くない彼女は、数杯のビールで白い顔をポーッとピンクに染めている。
春は別れの季節である。
ある年の早春、私は東京に帰ることになった。多忙であったが何とか都合をつけた三月のある日、私たちは例の美術館で会って南禅寺を歩いた。レンガ造りの疎水のアーチと椿の花が美しかった。
豆腐好きの彼女が、南禅寺名物の湯豆腐にもあまり手をつけない。湯豆腐に添えられた、一輪の椿の花が目にしみた。
「寂しゅうなりやすな」
いつになく口数少ない彼女の言葉が耳に残っている。息子を東京の大学に行かせているから、生活は楽ではないだろう。
それから幾日かして、珍しく彼女から郵便が届いた。それがこのしおりである。
(了)
課題-3 「別離」 2001.04.03
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コメント
この様なしっとりとしたエッセイは、やはり縦書きが似合います。
横書きにしてベタ一面だと、何かそぐわないような気がしますが、いかがでしょうか。
力量不足といわれれば、確かにその通りなのですが・・・。
投稿: 帆走子 | 2009年1月 6日 (火) 11時12分