0042 都心上空エンジン故障!
このブログの常連である元同僚から
「面白いけど、最近ヘリが出てこねぇーなー、昔の義理を忘れたんじゃねーだろうなー」
と脅迫?を受けました。
月刊誌「ヘリコプター・ジャパン」NO-38(98年6月号)に掲載された記事に手を加えてアップします。
誌上では副操縦席の私が写真で出ていますが、ちょっと面映いので・・・。
文中のNg回転計とは、エンジンの状態を示す最も重要な計器です。
(写真の機体は本文とは関係ありません)
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「都心上空エンジン故障!!」
19XX年、元旦。たった今昇ったばかりの初日に照らされて、ミルキーホワイトの機体が薄いピンクに輝いている。広い東京ヘリポートのエプロンには、我々以外に人影はない。
アメリカ建国200年を記念して開発された、最高級の純民間用ヘリコプターである シコルスキーS-76A,JA-95XXは当時日本で唯一のVIP専用の機体だった。最新鋭の装備を備えたこの機体は、標準11席の客室を5席で使っている。
毎年、元日の日の出と共に、祝賀行事を終えたVIPを迎えに行くのが恒例だった。 試運転を終えてすべての準備を完了した機体を、機長は静かに浮上させた。離陸前点検が続く・・・。自動操縦装置もエンジン出力もすべて正常。右前方からの朝日が眩しい。
「レディフォーティクオフ・ランウェイ・ゼロワン!」
運用時間前で応答のないタワーに宣言するように無線通信すると、機長は北に向けて離陸を開始した。眼下を格納庫が飛びさり、荒川の鉄橋を過ぎる。
「ギァー・アップ(脚上げ)!」
機長の声に、副操縦席の私が、白いノブの付いた脚上げレバーを上げると、シューッと脚の引き込まれる音が腹の下から聞こえる。数秒置いて3ッの注意灯が消えた。
すべてノーマル。
突然ブッブーと断続したブザー音がレシーバーに飛び込んできた。同時に計器盤上の赤ランプが目に突きささった。ドキンとしたどころか、ガンとぶん殴られたような気がした。胸がキューっと痛み、一瞬頭が真っ白になった。
とっさにあたりを見回したが、計器盤上の指示は、他に特に変化はない。
「ナンバーワンエンジン・フェリアー(第一エンジン故障)!!」
機長の声は意外と落ち着いていた。機長と顔を見合わせ、2人同時に計器盤の第一エンジンのNg回転計に目がいった。計器の指針が範囲一杯に振れている。計器に内蔵されているデジタルの数字は94.0%で動いていない。
計器盤左上方のエンジン故障を示す警報灯のライトがいやに鮮明に赤い。エンジン火災”を恐れて、火災警報灯が点灯していない事を真っ先に確認した。ゆるく左旋回して後方を見たが、煙を引いている様子もない。
この間にもブザーはなり続け、第一エンジンの赤ランプは消える気配は無い。
しかし関連するその他の出力監視計器類も、両方のエンジンともに全く正常である。姿勢も爆音も何等の変化もない。機体は快晴微風の元日の都内上空を、自動操縦で緩やかに上昇を続けている。速度は経済巡航速度の125ノット(時速240キロ)を示しており、すべてオメガ航法装置のコンピューターに指示した飛行計画の通りである。
私たちは再度顔を見合わせた。どうやら警報装置の誤作動らしい。第一エンジンは正常に回っている!! しかしVIPの任務をどうするか。
それまで不規則に振れていた第一エンジンのNg回転計の指針が、上限側で一瞬止まった。同時につきっぱなしであった赤ランプが、点滅するのが見て取れた。1秒後にNg回転計の指針は再び振れはじめ、赤ランプはまたつきっぱなしになった。
機長は無線で運航管理担当者に状況を連絡し、とりあえず任務を継続する旨を伝えている。副操縦席にいた私は、にぎりこぶしでNg回転計の前面ガラスを2~3回、かなり強くひっぱたいた。繰り返しているうちに突然振れていた回転計の指針は91%付近で止まった。
同時にブザー音も赤ランプも消えた。まるで操縦席内がシーンと静まり返ったように思えた。両エンジンのNg回転計の指示はほぼ一致している。
犯人はNg回転計だった!!!
皮肉なことに、このNg回転計は任務完了までケロリとおさまってしまった。もちろん帰投後、徹底的に原因調査したのはいうまでもない。
やはり計器自体の内部故障であったが、計器の故障で緊急事態の警報が作動するようでは、設計が悪いと言われても仕方があるまい。(この件はその後改修工事で改良された)
また当時のアメリカ製品は航空機産業に限らず、品質管理体制が低下して信頼性を失っていた。しかしながら最も大切なのは、クルー(乗組員)がクール(冷静)になることだと痛感させられる一件であった。 (了)
1996.12.26
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